最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)527号 判決 1966年10月27日
上告人
百合本正義
右訴訟代理人
民繁福寿
被上告人
前田恭子
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人本人および上告代理人民繁福寿の上告理由について。
建物の借主がその建物等につき賦課される公租公課を負担しても、それが使用収益に対する対価の意味をもつものと認めるに足りる特別の事情のないかぎり、この負担は借主の貸主に対する関係を使用貸借と認める妨げとなるものではない。しかして、原審の事実認定は挙示の証拠によつて肯認し得、かかる事実関係の下においては、本件建物の借主たる上告人がその建物を含む原判示各不動産の固定資産税等を支払つたことが、右建物の使用収益に対する対価の意味をもつものと認めるに足りる特別の事情が窺われないから、上告人と建物の貸主たる訴外百合本亀一との関係を使用貸借であるとした原審の判断は相当として是認し得るところであり、その他、原判決には何等所論の違法はない。それ故、論旨は採用に値しない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠)
(注)原判決理由の一部
「控訴人は、昭和二五年頃から昭和三二年頃まで、百合本亀一、その父百合本甚吉、その母百合本ツチの各所有名義の不動産ばかりでなく、百合本亀一外九名所有名義の不動産に対する固定資産税のみならず、当初は亀一の市民税、甚吉やツチ名義の水利地益税を支払つたこと、右不動産のうち百合本ツチ及び百合本亀一外九名所有名義のものの固定資産税は亀一が一人で負担すべきものではないこと、前示期間中に控訴人が亀一等に代つて支払つた前記税金の総額は合計一四七、七一〇円(但し、この金額中には商工組合中央金庫が代納した金五七、二八八円を含む)であつて、昭和三二年度における前示不動産の固定資産税の年額は約三二、八〇〇円であること、昭和三三年六月頃の本件建物の適正賃料は階下部分について一カ月金六、〇〇〇円、二階部分について一カ月金三、八五六円、合計金九、八五六円であつて年額約一一八、〇〇〇円であることが認められる。」